この星が、好きだから― 私は、ティターンズ。


by fch_titans
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また逢う日まで―



一行目を読み終えたとき、その思いもよらぬ内容に、一瞬、時の流れが止まったかのような感覚をおぼえた。










                  『9月7日11時20分 ベル死去』









しばらく絶句したあと、大きく、ゆっくりと息を吐いた。
そうか、とうとう「その時」が来てしまったんだな…


改めて電話をかけなおす。
ついさっき、近所の寺で供養をすませ、今は自宅に安置してあるという。
次に実家に戻るのは明日の夜、勤務終了後の予定だった。が、明日は出勤時間も遅めなので、今から帰還することも可能ではある。明日の夜遅くまで遺体をそのままにさせておくのも忍びない。
「よし、じゃあ準備をしてからすぐにこっちを出るから」
電話を切ったあと、車を逆方向へ走らせ、寮へと戻った。


寮を出て、高速を使ってK市へとひた走る。
大きく傾いた夕日と、それに照らされて紅く染まった入道雲をそれとなく眺めながら、左手を走る車の群れを追い抜いてゆく。
運転しながら、ベルにまつわる色々なことを考えていた。


ベルというのは、我が家で飼っている2匹の犬のうちの兄のほうで、齢12歳。しかし、2年半ほど前から心臓の病を発症し、寝ているとき以外は咳ばかりしている状態であった。特にここ半年くらいは一気に痩せ細り、咳もひどくなり、毛も抜けやすくなって、しっぽなどはもう禿げきってしまっていた。そんな状態ながらも自分の足でしっかりと歩き、食欲も旺盛で、まだ半年、いや1年は生き延びることができるのではないか? などと勝手に、同時に希望を込めて推測していたのだが、まさか、「その時」がこんなにすぐそこまで迫っていたとは… きっと、苦しかったに違いない。
それに気付いてあげられなかったことが、とても悔やまれた。


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それにしても、本当にかわいい犬だった。
犬は、人間の一家にやってくると、その構成や人間関係を見極め、そのうちの一人をボスとして認識するという。
我が家ではボスと目されたのは母であり、母が一緒にいるときは、他の誰が帰ってきてもあまり喜ぶ素振りは見せなかった
でも、それ以外のときに私が家に帰ってくると、ベルはそりゃあもう喜んだものだ。あるいは、母は明らかに弟びいきであったので、ボスはあくまで母だけど、そういった階級抜きで一番好きなのは私だったのかもしれない。


それなのに、そんな私だけが、ベルの死に目に会うことができなかった。
実家を離れて働きに出ているのだから、仕方ないのは重々承知している。
でも、私だけがいないときに死んでしまうなんて…


などとぼやきつつ、それでもベルの遺体と対面したら、絶対大泣きしてしまうんだろ
うな、そんなことを考えながら、高速を飛ばす。
N市の街並みを、沈み行く真っ赤な夕日がやさしく包み込んでいた。


高速を下りて向かった先は、とある料理店。
家族がそこで一足先に夕食をとっているはずだ。
中に入り、店員のお姉さんに聞いてみると、いたいた、一番奥に。
さっそく腰を下ろし、その時の詳細を聞く。


いつもどおりに散歩に連れて行くため、抱きかかえて外へ出て、スタート地点となる電柱に降ろした。ところが、その日は一歩も歩くことが出来ず、ゼーゼーと辛そうに呼吸をするばかり。これは無理だなと判断した親父が再び抱きかかえ、家の中に連れ戻した。その後だった。突然血を吐き、苦しみだしたというのだ。
慌てて近所に出かけていた母を呼び戻した。母が抱きかかえ、必死に名前を呼んだところ、2度ほどビクッと反応し、そのまま息を引き取った―
とのことであった。


「お兄ちゃんは良かったよ、死ぬところを見なくて済んで。あの子、お兄ちゃん子だったから、
お兄ちゃんだけにはそういう姿を見せないようにしたんじゃない?」


妹の一言に、ハッとした。
そうか―
独りよがりな考え方かもしれないが、ベルは私のことを好いていたからこそ、私がいない今日、旅立つことにしたのかもしれない。
つまり、私にだけは、苦しんで息絶える姿を見せたくなかったのではないだろうか。



食事を終え、少し買い物によった後、家に入り、毛布に横たえてある遺体と対面した。
覆ってあったハンカチを摘み取ると、そこには数日前と何ら変わらないベルがいた。呼吸をしていないことを除いては。いや、じっと見続けていると、まだお腹が膨らんだり、しぼんだりしているんじゃないかとさえ感じられたが、それはやはり錯覚に過ぎない。大きな目を開いたまま、少しも動くことなく横になっている。いつもと同じ表情だったが、長らく苦しめられた病気から開放されたからだろうか、その目はどことなく穏やかに感じられた。


私はベルのそばに座ったまま、酒を飲みながらずっとベルの顔を眺めていた。
絶対に泣くだろうと思っていたのに、不思議と涙は流れてこなかった。
冒頭の記述と矛盾するようだが、もう長いこと病気にかかっており、最近は衰弱も著しかったので、何ヶ月も前から心の準備が出来ていたからだろうか。


それともう一つ、
ベルの場合は、天寿を全うしたと言っていいと思う。
これまで、犬、猫、小鳥、金魚に至るまで、我が家で飼ってきた動物は、ことごとく事故で死んでいった。車に轢かれたり、近所の大型犬に咬まれたり、野良猫にやられたり…
だがベルは、晩年は病魔にむしばまれたとはいえ、それは事故ではない。やっぱり、寿命だったと考えていいだろう。
だから、「なぜ死んだんだ?」ではなく「よくここまで生きたね」と思うことが出来るのだろうな。


涙は流れ落ちはしなかったが、しかしすぐそこまでこみ上げてきてしまった。言葉を発すれば、その拍子に堰を切ったように流れ出すかもしれない。そこで私は口を開くことなく、ベルの頭にそっと手を添え、心の中から言葉をかけた。


「長い間ありがとう。お疲れさま。」





翌朝。
庭を見たら、雑草がきれいに刈り取られていた。親父が出勤前に刈ってくれたのだろう。
ここからは私の役目だ。
スコップを手に取り、なるべく深く穴を掘る。幾度となく木の根に阻まれたが、詫びながらノコギリでこれらを断ち切り、掘り進めてゆく。
20分ほどして、満足のゆく大きさの穴ができた。


部屋に戻ると、弟のパルが、ベルの遺体のそばで一緒に眠っていた。

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そう、いつもこうして一緒に眠っていたものだが、いよいよそれも見納めだ。


遺体を新聞に包み、墓穴へそっと入れる。好物だったささみのジャーキーと、いつも遊んでいたぬいぐるみも一緒に入れてあげた。
「じゃあ、お別れしよう」
涙声の母がそう言うと、家族全員がしゃがみ込み、両手を合わせた。
これから土をかぶせれば、もう完全にベルの姿は見えなくなる。当たり前のことだが、そんなことを考えたそのとき、初めて涙が頬を伝った。
名残惜しいけど、いつまでもこうしているわけにはいかない。
「よし、じゃあそろそろ埋めるぞ」
私は立ち上がり、再びスコップを手に取ると、横に盛った土を遺体の上にかぶせていった。
最後に地表を平らに慣らし、埋葬が完了した。
線香に火をつけ、そっと土に差す。もう一度合掌したあと、涙を拭って立ち上がり、家の中へと入っていった。
快晴の空に、初秋の太陽が眩しく輝いていた。





あれから2日が過ぎた。


悲しいという気持ちは全くないものの、それでもやっぱり寂しさは否めない。
あの大きな瞳で私の顔を見上げ、しっぽを大きく振って喜びを表していたベル。
抱きかかえると両前足をちょこんと揃え、耳の付け根をなでるとその方向にぐるりと首を傾けたベル。
留守番を頼み、家を出ようとすると、自分も連れて行けとばかりに玄関から飛び出そうとしたベル。
それでもダメだと知ると、悲しそうな目でこちらを見ていたベル。
陽だまりの中、本当に気持ち良さそうにすやすやと眠っていたベル。


もう二度と、そんな姿を見ることはできない―


しかし。
現実の存在としては消えてしまったけれど、私の記憶から消えることはない。
何年経っても、いや何十年経っても、記憶の中ならばいつでも甦らせられる。
ベルは、家族の記憶の中でいつまでも生き続けるのだ。






最後に、こんなところに書くのは恥ずかしいのだが、この気持ちをいつまでも忘れないよう、ベルへのメッセージを記して終わりたい。


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愛すべき弟、ベルへ。




これからもずっと私たちを見守っていてくれ、などとは言わない。
FCH家激動の12年間において、お前は私たち家族をいつでも癒してくれた。
もう十分だ。これ以上、何もしなくていい。
あの世を駆け回って、思う存分遊んでくれ。


でも、お前は本当に人間が好きだからな。
人がいれば必ず近寄っていって、傍らで寝そべっていたものな。


そうだ、それだったら、一つだけ頼みがある。
2年半前、それこそお前が病気にかかったころ、ガンで亡くなった叔父さんが、そっちにいるはずだ。
生前、よく叔父さんのアパートに泊まりがけで遊びに行ってただろう?
たぶん― そっちのことは分からないから、あくまで「たぶん」だけど、叔父さんきっと寂しくしていると思うんだ。
だから、できれば叔父さんの元へも行ってあげてくれないか?
きっと喜んでくれると思うから。




それじゃあ、さようなら―




じゃなくて、また逢おう。
何年、何十年も先になるかもしれないけど、きっとまた逢おう。



                                        不肖の兄 FCHより

                                        2008年9月10日

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by fch_titans | 2008-09-10 15:07 | その他諸々

「あー疲れたぁ! うっ、なんか頭痛いし…」
3機のマシン(とも言う)と必死に格闘しているうちに、勤務終了の時間を迎えた。
我を忘れて作業をこなしていると、時間が経つのが早く感じられる。それはいいことだが、あまり度が過ぎると極端に疲れてしまう。
まぁしかし、明日は午後からの任務なので、それまでのおよそ23時間、ゆっくりできる。
通常なら寮に戻り、のんびりテレビかネットか音楽か、あとは部屋の掃除でも―といったところなのだが、先週までと違って今日は天気がいい。時間にも余裕があることだし、行っとくか!?


カメラなどを取りに戻り、すぐさま出撃し向かった先は、T半島南部。
半島周遊コースなら、それこそ何回も走ったことがあるが、実は内陸部はほとんど走ったことがない。しかし、その内陸部にも、趣のある愛すべき田舎の風景があちらこちらに存在している、ということを、この春知ったのである。
今日はその道を、バイクではないのが残念ではあるが、まあ下見のつもりで車で走ってみよう、と思い立ったのだ。
陽が傾くのが早くなってきたが、まだ明るいので景色は堪能できそうだ。海岸線に下るころには、きっときれいな夕日が拝めることであろう。


さっそく南下してみたものの、予定ルートが全く頭に入っていなかった。
確認のためコンビニの駐車場に入り込み、地図を手に取ろうとしたときだった。
携帯電話から、珍妙な着信音が流れた。家族からのようだ。何の用だろう? バッグから取り出して開いたとき、ちょうど切れてしまった。


かけなおそうとボタンを押すと、不在着信が4件。オイオイ、どんだけかけてるんだ? さらに留守電やメールまで入っているではないか。
えーい待て待て、順番に処理するから。とりあえずメールから。って、なんだオヤジからか。
あのIT音痴だったオヤジも、いっちょまえにメールをよこすようになてきたな。
さっそく開いて読んでみる。
一行目を読み終えたとき、その思いもよらぬ内容に、一瞬、時の流れが止まったかのような感覚をおぼえた。

                  (どーいうタイミングで切るんだ!? と思いつつ、次回へつづく)
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by fch_titans | 2008-09-09 23:03 | その他諸々